欲望には目的と理由が必要であるとするならば、自分は欲望を持っていない人間と言えるかもしれない。
快楽の定義が欲望の充足によって起こる感情であるとするならば、自分は快楽を感じ得ないと言えるかもしれない。
彼は目の前に転がる「さっきまで人間だったもの」を横目に、そんなことを考えていた。
決闘、博打、詐欺、暗殺、女、何をしても満たされない。
満たされたと思ったと同時に、また虚無感に包まれる。
命を賭け、0か1かが定まるその瞬間、その一瞬にだけ自分は「生」を感じられる。
彼は自分の中に欲望を持つこと、目的を定めることをすでにやめていた。
欲望のために目的を果たしても、欲望が満たされた瞬間虚無へと化す。
自分が欲した物は大概、手に入れることができた。だがどれもすぐに飽きた。
……戦争の直後だろうか?
まだ炎がくすぶっている街を徘徊している途中、彼は人形を握り締め、泣き叫ぶ子供の姿を見た。
彼は幼いころ、よく人形遊びをしていたことを思い出した。
人形は魂を持っていなかったので、何でも自分の思い通りに動かせた。
時に自分の意思にそぐわず、思い通りに動かない人形もあった。
だがそんな時は、彼が人形に力を入れると立つ鈍い音が、彼の要求を満たしてくれた。
今思えば、むしろそんなことの方が、純粋に楽しめていたのかもしれない。
どうせなら、生きている人形のほうがいいだろう。
どうせなら、人形の家はこの大陸くらい大きいほうがいいだろう。
どうせなら、生と死と、涙と感動を誘うような大長編の劇を演じさせてみよう。
彼は、鼻歌を歌い始めた。
そしておもむろに腰に携えた細長いナイフを取り出すと、それを指揮棒に見立て、目を閉じて気持ち良さげにリズムを取り始めた。
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