風のクロノア/開発者リレーエッセイ
OUTER VISION 1:前身を考えよう
ヒューポー ねぇクロノア。ぼくたちが生まれる前って、どんなのだったか知ってる?
クロノア 生まれる前? それって…ゲームになる前ってコト?
ヒューポー そ。いっちばん最初の、まだ具体的に内容が決まる前。
クロノア ーん…なんかロボットものだって話は聞いたコトあるけど …。
ヒューポー そうなんだ。最初はシリアスなストーリーのロボットもの。
鉄球をブンブンふりまわして敵を倒していく、スーパーアクションバトルを想定していたんだ。
クロノア へえ…。
ヒューポー 過去と現代をつなぐ壮大なストーリー! 運命に翻弄される主人公!
クロノア おおっ、カッコいい!
ヒューポー
時空を超え、全ての歴史を覆えし、燃え上がる大宇宙! 禁断の、そして崇高なる永遠の愛! 偽りと信頼の狭間で揺れ動く友情!
クロノア いいね、いいね!
ヒューポー
本当の正義とはなんだ? 真実とは一体何なんだ?自らの存在に悩みつつも、強大なる敵に敢然と立ち向かうことを余儀なくされた主人公!自分はなぜここにいるのか?自分は誰の為に戦っているのか?
クロノア いい…けど…。
ヒューポー
(目を輝かせて)呪われし血の絆が心を打ちのめし、殺りくという名の響宴が自らの手を真っ赤に染め上げる。生きる目的を見失い、現実のみが己の魂を無理やりにも戦場へと駆り立てていく!
クロノア あの…。
ヒューポー
(いよいよ熱がこもって)俺は誰だ! この世界はなんなのだ! アイデンテティ・クライシスは虚無たる野獣と化し、自らの存在を蝕んでいく!
逆転する主観と客観! もはや自我そのものが世界を凌駕し、自分というインターフェイスを通したすべての存在が境界線を失い、やがて訪れる暗澹たる白暮の中…
クロノア ヒュ、ヒューポー…?
ヒューポー (聞いちゃいねえ)もはや目に見える形は現実を現実たらしめるためだけの無意味な呪縛でしかない! 人間たる器を脱ぎ捨てながらもなお人間として見定めねばならぬ二重反律に抗いながら、魂の進化とでもいうべき精神界に於ける事象の地平へとなだれ込んでいく主人公! その時、観念化されたはずの自我というゼウス・エキス・マキーナが…
クロノア ……。
ヒューポー (暴走)求め出ずる存在とは如何なる現実により導き出されるものなのか? それが神の手だというのであれば、はたして形骸という災厄に蝕まれたそれにどのような意義があるというのか?
 あたかもガルガンチュアの物語に巨人という一種のメタファクターが持ち込まれざるを得なかったかの如く、我らが展開すべき物語の内にも…
クロノア …ボツになるわな…そりゃ…。