2018/03/29

【アイマス・坂上P】仕事は“正解”を求めすぎず、自分が楽しむ

バンダイナムコエンターテインメントでは現在、NE事業部第一プロダクションにてゼネラルプロデューサーを務めている坂上陽三さん。幅広いファンの方から支持される『アイドルマスター』シリーズが始まって十数年。長年愛されるコンテンツを作り出す秘訣とは?

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『アイドルマスター』シリーズの総合プロデューサー、坂上陽三。プロデューサーとして持つべき視点や仕事に対するマインドを語る。

『アイドルマスター』シリーズが成功を収め、長年愛され続けるためには、ユーザーの期待に応えるプロデュース力だけでなく、社内の開発チームを統率する手腕が必要です。

長年愛される、“大規模コンテンツ”に成長させるために、坂上プロデューサーはこれまでどのような姿勢で仕事に取り組んできたのでしょうか。プロデューサーとして持つべき視点や仕事に対するマインド、さらに自身の経験談を交えつつ、若者へ向けたアドバイスを伺いました。

たとえ孤独でも、プロデューサーとして「ユーザー視点」を貫く

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――現在は『アイドルマスター』シリーズの総合プロデューサーとして知られる坂上さんですが、業務の内容としてはどのようなことをされているのでしょうか。

簡単に言うと、いろいろなことをやりながら、14名 のプロデューサーをまとめています(笑)。

――いろいろと言いますと……?

『アイドルマスター』シリーズのクリエイティブ、セールスの全てを統括することが、僕の役割です。大きな企画を動かす際は、基本的に「プロダクション」と名前を冠するチームで動くのですが、そこでの僕の立場は、部下のプロデューサーたちをまとめ、プロジェクトの統括・管理をすることです。

よくよく考えるとプロデューサーって、ものすごく業務範囲が曖昧で難しい役割だと僕は思うんですよ。例えば、僕らは企業として商業作品を作っているわけですが、「作品=クリエイティブ」「商品=セールス」をそれぞれ円で表すとすると、プロデューサーはそれぞれの円が交わる部分を担い、作品として、商品として成立させて世に送り出すことが求められます。

ざっくり言うと、ゲームを制作するクリエイティブ側は作品のクオリティを重視します。「新しい表現に挑戦したいから、時間もお金もください」と。

逆に、セールス側は売り上げを増やしたい。「たくさん売りたいから、売れるものを早く作ってください」と、プロデューサーに言ってくるわけです。

「クリエイティブ」を重視するのか、それとも「売り上げ」を重視するのか、つねに天秤にかけているようなところがあって。

そこで考えたいのが、プロデューサーってどういう立ち位置にいるかということ。プロデューサーは、クリエイティブとセールスの間でバランスを取り、ものづくりへのこだわりと、会社にとって利益が出やすいもの、どちらも加味して世に送り出すことが求められる立場なんです。

ただ、プロデューサーの仕事は、ときにはどっちからも恨まれる場合もあって……。例えば、クリエイティブチームには「売れるのか」を問い、セールスチームには「作品としてどうか」を問う、いわゆる“二枚舌”を使わなければいけないこともあります。僕らに味方してくれることもあれば、敵として見られることもある。両側に必ずしも味方がいるってわけではなく、孤独な立場でもあるんです。

僕らは、コンテンツの価値を最大化するための戦略を練って推進している。ここがプロデューサーとしての仕事の中でも最も大事で、「譲れない」部分なんです。

――関係を構築していくには、経験とスキルが必要ですね。

そうなんですよ。新規のプロジェクトを進めるまでに、クリエイティブチームとセールスチームの信頼をどれくらい作れるのか、というところが大事だと思います。意見がぶつかり合ったときにはそれに加えて、どっちにも視点を変えてもらうことが必要だと思っていて。

――視点を変えるというと。

要するに、結局一番大事にしなきゃならないのは「ユーザー」なんですよ。クリエイティブ側の「作品はこういう風に作りたい」も、セールス側の「いっぱい売りたい」も、よく考えればどっちも自分たちの都合で語っているじゃないですか。「それって、本当にユーザーのためになっているの?」と問いかけるわけです。誰に向けて作っているのか、立ち戻って考えてもらうんです。

で、僕らプロデューサーは常にお客様の味方でなくてはなりません。意見がぶつかって企画がうまく進まなかったり、どちらかに偏ってバランスの悪い方向に進みそうになったりしたとき、なんにせよ「ユーザー視点」の姿勢は崩さないようにして、クリエイティブチームとセールスチームを説得していかなければなりません。

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■無理して「人並ちょっと以下」を目指すよりも、好きなことを伸ばす

――日常の出来事が仕事に活かされることはあるでしょうか?

これは持論ですけど……。結局、流行りとか世の中の風潮を感じるのって、小さい頃からずっと好きなものからなんですよ。そこから時代を感じられると思うんです。

例えば、僕は前職では映像業界にいましたし、映画や海外ドラマが大好きなんです。最新作は観るようにしているんですが、映像のカット割りであったり、セリフのテンポ感であったり、ヒーローの心境であったり、「最近はどの作品を見ても一緒だな」と感じることがあるんですね。で、これって要するに、世の中ではそういうものの機運が高まっていて、求められているってことなんですよ。

僕は映画や海外ドラマからトレンドを捉えていますが、それは人によって、漫画かもしれないしアニメかもしれないし、音楽かもしれない。正直、自分が好きなものであれば何でも良いんです。直接的に仕事につながるかは微妙なラインですが、常に新しいものに触れて、時代を見て、昔と今の「違い」を感じ取れる力を養うっていうのは大事なんじゃないかなと思うわけです。

――好きなことを続けることは大切、ってことですね。

例えば、アニメが好きじゃない人に「アニメを見ろ」と言っても、絶対に見ないですから。自分が元々興味を持っていることの延長線上で得たものを、どう伸ばしていくのか考えた方が良いと思うんですよね。苦手なことを無理して「人並ちょっと以下」のレベルに引き上げるよりも、得意なことの枝ぶりを伸ばしていく方が、人は成長できるのかなと。

新しいモノを作り出すには、他人から評価される“正解”を求めすぎない

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――そんな坂上さんの仕事への姿勢を見ている部下の皆さんですが、成長は最近感じましたか?

そうですね。『アイドルマスター』シリーズで言うと、次を担う人たちみんなにチーム力が出てきたな、と感じます。

『アイドルマスター』というコンテンツはパッと見はゲームの仕事ではあるけれど、ライブやアニメの要素も入っているプロジェクトです。様々なコンテンツがまとまったプロジェクトなので、「チームワーク」の良さがコンテンツの価値向上のために求められます。
先ほども言いましたけど、人には得手不得手があります。集団になったときに不得意なところを補い合い、得意なところを伸ばし合えるチームになってきたかな? と思いますね。

――なるほど。坂上さんご自身は、どのように部下の皆さんを指導しているのでしょうか?

僕が所属しているのは会社という組織ですから、いかによりよい人材を育成するかっていうのは大事なこと。ただ、教えることはできるんですが、育てるのは難しいんですよ。これが。

「なぜやらなくてはならないのか」「なぜ必要であるのか」を考えさせて、動いてもらうって、かなり難しくて。例えば、「先輩はこうしていたけど、でもこうしたらもっとよくなるじゃないですか」と、“自分で改善点を考えられる”ようになったら、一人前に育ったってことだと思います。

――与えられた以上のことを、という意味ですね。

そうですね。自分でちゃんと吸収して考えて、物事をプラスへ導き、新しいものを生み出す。そこまでできたら「育てた」ということになると思うんですけど、そこまでってなかなか関われない。難しいけれど、できる限りチャンスを与えて 育てていきたいっていうのはありますね。

また、僕自身は部下に対して、「自分たちが本当にやりたいことをやりなさい」という姿勢でいます。「そのゲームを誰に向けて作り、ユーザーにどう思わせたいのか」というユーザープロファイリングと、「そのゲームにどんな新しさがあるのか」といったキーポイントのみを確認して、後は自由にやってもらいたいというスタンスです。

人って強制されたり、細かく口出しされたりすると、本来の意図を汲み取らず、結局、不満のほうが強くなる。そうなってしまうとただの“業務”になってしまい、なかなか良いものが上がって来ない。僕も昔、そうだったから分かるんです。

本人が得意としていることを伸ばしてあげるっていうのはひとつのポイントなのかなと。自分はその仕事が苦手だけど、逆に好きで得意な人もいます。会社って、いろんな人たちが総合的に集まって、大きな組織になっている。なので、適材適所を心がけて、一人ひとりを伸ばしてあげたいなと思っていますね。

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あ、あとすぐ正解を求める人は苦手なんですよ。

――え。

これはうちのチームや会社に限った話ではなく、正解を探して生きてきた人が増えたなとすごく感じていて。高校受験でも正解を、大学に入ってからも入るべきサークルや付き合うべき友達といった、他人から評価される“正解”を ……。なので、みんなに好まれるような正解を出すのは早いんです。でも、自分の中で「これがいいんだ」は弱く感じます。これでは、新しいモノを作り出すことはできません。

なので、どこかで放任をすると、思考停止してしまう人が多いんです。自分の好きなことを突き詰めてやってきたことがないと、そうなっちゃう。

――そんな人は今の仕事に向いていないと……。

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いや、いや(笑)。ただ、ちょっともったいないなと。

みんな人からの評価を気にしすぎるあまり、自分自身を客観的に見られていないんじゃないかなと思うんですよ。僕もそうだったんですけど、「自分はどんな人?」と言われたときに、困ると思うんですよね。人のことは言えるんですけど。
自分のことを知らないヤツを、僕は育てられる自信が無いんです。

とはいえ僕も、40歳を過ぎて自分のことを知りましたけどね。
きっかけは、レンタルビデオ屋さんに行ったときのこと。面白そうな最新映画とC級のゾンビ映画が一緒に並んでいると、僕は絶対につまらないと分かっているゾンビ映画を選んでしまうんです。

元々ゾンビ映画が好きなんですが、開始5分くらいで「つまんな!」となることが分かりきっているのに、なんでわざわざC級ゾンビ映画を選んでしまうのか。なんで僕には、そんな変態的な趣味(笑)があるんだろうと、掘り下げて考えてみたわけですよ、40歳になって。

それで判明したんですけど、小学校5年生くらいに、一人で『ゾンビ』(1978年公開、ジョージ・A・ロメロ監督作品)という映画を観ているんですね。悪夢を見てしまうぐらい怖かったことを思い出しました。
きっと僕は潜在的に、そのトラウマを消したいと思っているんです。なので、ゾンビ映画を観てはひたすら、「つまらん、作り物」「これじゃビビらん」と確信を得ていくという、恐怖心を打ち消す行動 を繰り返している。それに40歳になってやっと気づきました。

――気づいてからは新作の映画を楽しんで観られるようになりましたか?

そうですね(笑)。

■自分を知る努力をし、仕事をどう楽しめるかが成長につながる

でもまあ、自分を知ることによって、仕事にしろ、プライベートにしろ、常に自分のポジションがどこにあるのかを確認し、客観的に見ることは大事ですね。どういう姿勢で仕事に取り組むべきなのか、考えられますから。

バンダイナムコエンターテインメントには、「バリュー」という行動指針があります。その一番はじめに「まずは自分が、楽しもう」という言葉があるんです。

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僕が思うに、この「まずは」というのは、自分が置かれた状況なんですよ。
「あ、これ俺やったことないけど」という状況。僕でいうと、2005年 に『アイドルマスター』のプロデューサーとして関わるようになったとき、アーケードからコンシューマーへの移植は初めてで、あのときは本当に「どうしよう」という状況 でした。

あのときを振り返ると、初めての挑戦で自分が何を、どう楽しめるのかを考えられたことが良かったのではないか、と思うんですよね。結果的には『アイドルマスター』シリーズは、誕生してから10年以上経っても続いているコンテンツですので。

誰しも、まずは自分が置かれた状況を客観的に見て、自分がその中でどう楽しめるか。そして複雑に言葉を紡がず、シンプルに存在意義を出せることを考える。こうすると仕事が思うように進むのではないんじゃないかな。

――本日はありがとうございました!

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【取材後記】
インタビュー中の会話に何度となく出てきた「ゲームを作るにあたり、一番大事にしなきゃならないのはユーザー」という言葉。坂上さんがゲームをプロデュースする際、常に「お客さんだったらどう思うか」を考えていることが分かります。

これは『アイドルマスター』シリーズが10年以上続くコンテンツとして評価され、坂上プロデューサー自身もユーザーから親しみを込めて「ガミP」とも呼ばれているなど、ユーザーから愛され続けている理由の一つなのかもしれませんね。

とはいえ、最初からユーザー視点を持っていなかったとも。

「僕は開発出身だったので、昔は“作品ありき”という考え方を持っていました。お金も時間もかけるから、より良いものを作ることに注力を置いていて。ところが、誰に向けて作っているかを意識していないと、“外れる”こともあるんです。そういうこともあって、ゲームを楽しむのはユーザーという認識に徐々にこの数年間で変わっていきましたね」

坂上プロデューサーも、ゲームを“外した”ことはあり、全てを成功させてきたわけではありません。それは自分の立ち位置が分かっていなかったということにもつながります。「若者は苦手」という少し衝撃的な発言もありましたが、それは意識がどこに向いているのか分かっていないからということ。

自分の立ち位置を改めて理解し、その上で、自身がこれまでにやったことがないこと、前例がないことをいかに楽しめるのか。これを考えて取り組むことが、坂上プロデューサーのように成長につながるのでしょう。

【取材・文 長橋諒(プロフィール)】
1989年生まれ、東京都昭島市出身。現在はフリーライターとして活動中。コーヒーが好きですが、すぐにお腹を壊します。 Twitter : @nagahashiryo

【写真 なかむらしんたろう(プロフィール)】
デザイン会社でアプリ・Webディレクターとして働く傍ら、フォトグラファーとして数多くのメディアで撮影を担当する。ポートレートを得意とし、アーティストやモデル等の撮影を中心に暗躍中。 Tumblr : https://filmtaro0901.tumblr.com Instagram : @nakamuran0901 Twitter:@nakamuran0901