2018/06/12

eスポーツ文化普及に必要な2つの条件:後編【バンダイナムコ・原田P】

対戦格闘ゲーム『鉄拳』シリーズのチーフプロデューサーとして知られる、バンダイナムコエンターテインメントの原田勝弘さん。現在、eスポーツプロジェクトにも注力する原田さんに「eスポーツ文化普及に必要な条件」(後編)を語っていただきました!

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第2の条件:eスポーツを観戦する人・応援する人を増やすこと

インタビュー前編では「eスポーツ普及の第1の条件は、プロライセンス選手を増やすこと」と語った原田さん。後編では、eスポーツを観戦・応援する人をどのように増やしていきたいのかお聞きしました!

■日本でも広まりを見せる、eスポーツ「観戦」の文化

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――「eスポーツを観戦・応援する人を増やす」とのことですが、eスポーツの観戦は、身体を使ったスポーツ観戦とどう違うのでしょうか?

eスポーツの観戦は、「楽しみ方が分からない」「異質」といった先入観があるかもしれませんが、野球やサッカーを観るのと、ぜんぜん変わらないんです。
例えばプロ野球観戦だと、野球をプレイしない人でも、テレビで試合を観ながら「ここは代打だろ!」とか「早くピッチャー代えろ!」とか、テレビの前で采配について口出ししたり、監督視点で戦略を議論したりしますよね(笑)。このような観戦の楽しみ方が、eスポーツの世界にも出てきています。

――eスポーツ競技タイトルの『鉄拳7』もニコ生でのライブ配信などプロゲーマー同士の対戦で視聴者が盛り上がっていますよね。

実は『鉄拳7』は、シリーズで初めて、観る人を意識して開発したんですよ。特徴は「スーパースロー」というシステム。プレイヤー両者の体力が残りわずかな状況でお互いが同時に技を出すと、画面が超スローになる演出です。スピーディな攻防の中に、プレイヤーも観客もどちらの技が先にヒットするか分からない一瞬の「間」を作ったんですね。

――観ている人も、手に汗握るでしょうね!

野球やサッカーなど、従来のリアルな試合であればリプレイ映像でしか見られないですが、『鉄拳7』ではプログラムの先読み機能によって、リアルタイムにスロー映像が挿入されます。これはeスポーツの試合でしかできない演出ですね。
スーパースローが発動すると、普段はシャイな日本人を含むアジアの観戦者たちさえ、大きな歓声を上げます(笑)。自分のプレイで大歓声が上がるわけですから、プレイヤーもかなりテンションが上がるみたいです。作った側としては、まさに狙い通りで嬉しいですね。

■eスポーツは、性別や年齢、身体のハンディキャップに関係なく誰もが楽しめる

――スーパースロー導入のように、ゲームの面白さを追求し続けていらっしゃいますが、プレイヤーや観戦する人からはどんな要望がありますか?

最近eスポーツに関わり始めた人からは、「ゲームバランスを平等にすべき」という意見がよく出ますね。でも僕としては、eスポーツのために「平等な」ゲームを作るというのは、ナンセンスだと思っています。
平等なゲームなんて簡単に作れます。明日までに持って来いと言われたって、僕はできますよ。どんなゲームだと思いますか?

――えっ、なんでしょう……。改めて考えると難しいですね。

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答えはシンプルです。キャラクターの性能差を無くせばいい。『鉄拳』だったら、キャラクターを主人公の三島一八(みしま かずや)だけにする。

――確かに平等ですね。でもそれって、ゲームとして面白いんでしょうか……?

そうです、「それじゃあ面白くないよ」ってみなさん言います。そのとき僕は、じゃあゲームの面白さって何なの? って、逆に問いかけます(笑)。
僕が思うに、面白さの根源は、キャラクターの個性であり、その個性から生まれる戦略の多様性です。
例えば、攻撃のリーチが長いキャラクターがいます。小学生なんかは「腕が長いからズルイ」と言う。でも、上級者からすると、動きも速くないし大した脅威ではない。同じキャラでも、プレイヤーや観戦する人によって見え方や感じ方は全く違うんです。

そう考えれば、「キャラクターの個性に基づく多様な戦略」という面白さを保ちながら、誰にとっても平等なゲームを作るなんて、なかなか難しいと分かります。面白さとゲームバランスはある意味で相反するものですから。

――バランスを意識しすぎて面白さがなくなってしまっては、本末転倒ですね。

ゲームプレイヤーのうち、全体の7〜8割を占めるのはプロを目指さないカジュアルプレイヤーですから、彼らに楽しんでもらうための面白さが、ゲーム作りでもっとも優先すべきことなんです。
eスポーツは、うまくタイトルを選べば、性別や年齢、身体のハンディキャップに関係なく戦略を楽しめる、素晴らしいエンターテインメントです。誰でも競い合えるという意味でこそ、eスポーツは「平等」と言えると、僕は考えています。

実際に『鉄拳』の大会でも、12歳くらいの少年がレジェンドと呼ばれるようなプレイヤーを倒したことがありました。そのときは観戦者の盛り上がり方も、本当に凄かったですよ! 体格や年齢に差があっても勝敗がどうなるかは全く予想できない。これはeスポーツ観戦ならではの面白さですね。

■eスポーツのコミュニティを支援し、応援という形でも参加する人を増やす

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――展開の読めないワクワクする試合を観たら、「eスポーツをもっと観たい! 応援したい!」という気持ちが自然と出てきそうですね。

eスポーツを応援する楽しさをちゃんと伝えること、そしてそれができる環境や雰囲気を作っていくことが本当に大事なんですよね。

参考になるのは、欧米のゲーマーコミュニティが持っている「みんなで参加して盛り上げよう!」というスピリットです。
例えば、アメリカの世界最大級eスポーツ大会「EVO」は最初、数十人というサイズのゲーマーコミュニティからスタートしました。それが今では参加選手だけで1万人を超えるほどに成長しています。

日本でも、「eスポーツが好きだ」「観戦するのが楽しい!」「大会を開いてみたい!」という気持ちからスタートした自発的なコミュニティが広がり、定着していってほしい。ゲーム会社である我々としては、先頭に立って導くというよりは、むしろ彼らをバックアップする形でeスポーツ業界を活性化させていきたいんです。
例えば、2018年5月4日に行われた『MASTERCUP TRY FUKUOKA』は、地元コミュニティが主催した大会ですが、優勝した方にバンダイナムコエンターテインメントからプロライセンスを発行しました。プロライセンス発行大会は、既存コミュニティを支援するほか、他企業様と協賛する形でも、定期的に開催していきたいと思っています。

バンダイナムコエンターテインメントでは、「プレイヤー」「観戦者」、そして「コミュニティやスポンサー」を含めた文化を育てながら、eスポーツを盛り上げていきます。
「誰もが楽しめる」という素晴らしい価値を通して、eスポーツがプレイヤーや観戦者を含めた新しい「アソビ」として普及すれば、より楽しい世の中になると信じています。

――本日はありがとうございました!

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【取材後記】
インタビューの中、これまでゲームファンと一緒に大会やイベントを運営してきた経験を持つ原田さんならではの言葉がありました。

「ゲームファンは、運営側がゲームを本当に好きかよく見ていますから、仕組みだけ賢く作っても上手くいきません。運営側がゲームを好きで、イベントや大会は初めて成功します。だから今は、心からゲームを楽しいと思っているスタッフを集めています。eスポーツファンをサポートしつつ、ライセンス発行など彼らができないところは私たちで肩代わりする。そんな関係を築きたいと思っています」。

原田さんの強いゲーム愛に、eスポーツのさらなる発展を確信しました。

今後、『アソビモット』では、eスポーツプロジェクトに関する情報をお伝えしていく予定です。お楽しみに!

eスポーツ文化普及に必要な2つの条件:前編≫≫≫

【取材・文 高田陸(shiftkey)】
1991年生まれ。マンガもアニメもゲームも大好き。その実態は、40kmの山道を走破するトレラン男子。

【写真 岡田一也】

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