皆さん、はじめまして!「クロノアヒーローズ 伝説のスターメダル」TVCMのアニメーション監督を担当した金井です。CM、もう見ていただけましたか?このCMはスタジオ4℃という会社で作られました。今回はこのCM用アニメがどのようにして出来上がったのかをザックリと紹介します。


ちなみにCMの内容はナムコさんと広告代理店とで前もって決定済。僕に話が持ち込まれた時には、ちゃんと秒数の入った絵コンテもあり、劇場アニメの予告編風という方針も決まっていました。これらの基本方針に則って実際に映像を製作し、CMを完成させることが僕の仕事です。CMはドラマチックバトル編と銘打たれていて意外とシリアスな冒険活劇風。前作よりちょっとだけカッコいいクロノア。ゲームの画のことは忘れて、本当に劇場アニメ版があるつもりでイメージ。う〜んドラマチック!!


今回、最初の作業となったのは絵コンテのリライトです。カメラワークの指示が曖昧だったり、指定の秒数とそのカットの内容のボリュームが合っていないなど、実際の製作に用いるには不十分な点もあったからです。アニメの制作は絵コンテが全てのベースとなるため、なるべくこの段階で固めておいたほうがベター。どのみち画面サイズを劇場用風に横長に変更するつもりだったので、基本的な構成は守りつつ適切な形に改稿することにしたのです。
コンセプトは「スピード感」。15秒CMにしては内容豊富でどうしても慌しくなってしまうところを、逆に演出に取り入れたのです。常にカメラを動かし、その動きが生みだす「流れ」によって慌しさを心地よいスピード感に変えようという狙いです。最初のほうなど結構スムーズに「流れ」てくれていると思うんですが、いかがでしたか?脇目もふらず一気に駆け抜けていくクロノア。ヒーロー誕生の予感。


完成した絵コンテは、まずビジュアルコンテという形に置き換えられます。これはコンテの各コマを指定の秒数通りにコンピューターに取り込みカメラワークや、必要なら音楽などもつけて編集したもので、全体の流れのチェックに用いられます。最近になってよく行われるようになった作業で、デジタル化の恩恵のひとつです。
この段階でひとつ問題が発生!最初のGBAロゴの部分の秒数が短いことがわかったのです。元のコンテで指定されていた秒数に合わせていたのですが、実際にはそれよりも長く、しかもそれは絶対に変えてはいけない決まりだったのです。
CM全体の長さは伸ばせませんので、本編を削ってその分をロゴに充てるしかありません。このときナムコさんから「今回はアニメがメインだからゲーム映像部分を削りましょう」との提案をいただき、その方向で作業を進めるということになりました。実は後で触れる通り事はそう簡単なものではなかったのですが・・・。


なにはともあれ、コンテが出来れば、いよいよ実際の映像製作のスタートです。今回アニメ部分は10秒程度と短いためいろいろと通常とは異なる作り方をしています。例えば僕は作画監督でもあったわけですが、普通必要となるキャラクター設定書は作りませんでした。限定されたシチュエーションしか登場しないためゲーム用のイラストがあれば十分で、あとは作監修正でどうとでもできるからです。カット数の少なさゆえですね。


また、作業手順も通常はきっちりとしたフローに沿って進められるものですが、今回は各カット毎必要となるテクニックに応じて、その進め方を変えています。
例えば、始めのパンゴ、ガンツ、クロノアが登場するカットは、背景の動きも含めていきなりラフに動画を起こし、それを基に3Dの背景を組み、その上で必要となるテクスチャー用背景の原図を作成しました。
逆にロケットを追ってクロノアがジャンプするカットは、先に遠ざかる地面をワイヤーフレームで起こし、クロノアの大きさのガイドとなるものを乗せて全フレーム分プリントアウト。アニメーターはそれに合わせて作画するという手順でした。最初の例とは違い背景とキャラクターの位置関係に正確さが求められたためです。BGは床面だけなので背景原図は特に起こさず、美術へは口頭の指示のみ。


システマチックな作業工程は、テレビなど短期間でそれなりの分量を仕上げなければならない場合には有効ですが、どうしてもカット内容より、まずシステムありきの作り方になってしまいがちです。今回のように各カット毎に手法を模索できたのは作り手として楽しいことでした。まあ、それもこれも最初に言ったようにCMという超短編なればこそなんですが、もうひとつデジタル化によってテストが簡単に行なえるようになったことも大きいですね。デジタルの恩恵その2。


実際に画を描く作業は特にいつもと変わりなし。もくもくと机に向かうのみです。
アニメーターの立場として今回気をつけたのは、素直にわかりやすい作画をするということでした。どうもアニメーターというものは腕を見せたいとか、ちょっと癖のあるニュアンスを盛り込みたがるものなのですが、それはともすれば過剰表現となり、何を見せたいのかが曖昧になってしまいます。そういったことよりもCMを見た子供たちがストレートに気持ちを託せるような物を、と心がけました。クロノアがロケットを追って走る。その走り方に凝るよりも、一途なクロノアの姿を素直に描くことで画面では見えていない遠ざかるロケットを想像させ、それが更に必死になっているクロノアの気持ちを想像させる。一番見せたい所がストレートに伝わる、そんな表現に・・・なってくれていることを。


作画、背景と平行して、メインタイトルのバックで回転するメダルなどの製作もスタート。が!ここで問題発生。正確には再発。
メインタイトルはゲーム映像部分に被せることに最初から決まっていたのですが、例のGBAロゴの問題でその部分の秒数を縮めたことでメインタイトルを表示する時間も当然ながら短くなっていたのです。で、試しに表示してみたらこれが予想以上に短かった!短縮したからといってゲーム画面はちゃんと見せなくてはならず、その上回転するメダルにタイトルとなると明らかに時間が足りないのです。
あれこれ調節し、三人が月を見るカットいっぱいタイトルを被せてみても、まだ短い。
結局ゲーム映像部分は長めに戻し、かわりにアニメ部分を短縮するという結論とあいなりました。
しかし、これでタイトルを表示する時間は稼げましたが、すでに作画の進んでいるカットをどう短縮するのか・・?実写の場合は各カットの頭か尻を切るしかないのですが、ここでアニメの特殊な編集方法の登場!


ご承知の通り、アニメとは何枚もの動画によって成り立っています。この動画の枚数や、一枚の絵を何コマ撮影するかといったタイミングによって動きをフレーム単位にコントロールできるのがアニメの大きな利点です。これが今回役に立ちました。
例えばある枚数の動画で成り立っているカットがあるとします。ここから何枚か動画を抜き、撮影タイミングがそのままなら、カット全体の秒数は抜いた分だけ短縮できます。しかも現実と比較される実写と違い、アニメにはそもそも「こう動くのが正しい」という絶対的な基準はありません。ある程度動きを割愛してもさほど不自然には見えないのです。これだ!とすぐに決めました。単に頭や尻を切るより、短縮された尺に合わせて改めて動きを作り直すほうが自分としては納得できますし、カットの繋ぎも計算通りできますからね。まさにアニメならでは。アニメ様々。


で、この手法を可能にしてくれたのが、動画を取り込んで動きのチェックができる「QAR」というシステム。昔は専用のマシンが必要で何百万円もしたのですが、現在はパソコンで同じことができるようになり大抵のスタジオに導入されています。このシステムはその場で動画のタイミングを変更して確認できるので、各カット毎に動きがおかしくならないようにチェックしつつ、足りない尺をひねり出すことができました。デジタルの恩恵その3。ありがたいことです。


動画があがり、背景があがり、CGが完成すれば作業は「コンポジット」に入ります。これがいわば最終工程。旧来で言えば撮影にあたる部分ですが、実際にはもっと幅広い役割を担っています。基本的にはデジタルペイントされた動画データ(いわゆるセル画は今回一枚も使っていません)と背景その他を組み合わせる作業なのですが、多彩なエフェクト処理を重ねたり、色調を調整したりと、最終的な画面のクオリティを決めるあらゆる事がここで行われるという重要な工程なのです。今回、この作業を担当してくれた4℃の村上君には本当に助けられました。アニメっていろんな人の力によって出来ているんです。
また、ナムコさんから送られてきたゲーム映像や、価格、発売日テロップもここで入りました。
12月13日発売・・ほんとに発売されるんだろうな?と思ったのは内緒。ちなみにアニメ部分の微調整はカッティング(編集)前日まで続けられました。


カッティングは自動的に終了。もともとアニメは余分な映像がほとんど出ない上、今回は例の短縮問題もあって、仕上がった映像をそのまま繋げば15秒ぴったりという無駄の無さ。このときナムコさんから価格の文字をもっと大きくとのオーダーがあったのでそこだけ修正し、ついに映像部分の作業が終了。SE(効果音)やナレーションなどを重ねればいよいよCMのできあがりです。


MA(ナレーション、SE、音楽のミックス作業)はナムコさん、代理店の方々同席で都内の某録音編集スタジオで行われました。コピーやナレーションの内容は事前に代理店の担当者を中心につくられました。声優さんは クロノア役の渡辺さん、ロロ役の川上さん、ナレーションの檜山さんの三人。
ロロなんて「キャー」って言うだけなのにわざわざ来てもらうという贅沢さ。みなさん勘がよろしくて、それぞれ数回のテイクで無事OKとなりました。


ところが最後の最後にまたしても問題発生!別注のSEテープに傷があり、正常に再生できなかったのです。慌てて代わりを取りにいくも何故かこれも駄目。めったに無い事態に皆さん焦る焦る。結局、新品のテープに改めて落としたものを再度SE会社に取りに行くことになり、予定していた作業は中断となってしまいました。
ちょうど昼どき、昼食休憩ということになりましたが、その間にオペレーターさんが最悪のケースを考慮し、傷入りテープの音源の修復を始めました。これがすごい。ノイズの入っている部分を除去し、正常な部分から拾ってきた音をはめ込むのですがちょっと聞いただけではそういった処理がされているとはわからないくらい自然な仕上がり。
おかげで新テープが届くまでの間に音のバランスなど大よそのことは決めることができました。デジタルの恩恵その4、と同時にプロの技術を見ましたねー。


その後届けられた新テープに問題はなく、それからすぐにMA作業は終了。ここに「クロノアヒーローズ・伝説のスターメダル」のTVCMは無事完成となったわけです。


振り返ってみると、多少のトラブルはあったものの、まぁ、順調にいったほうだと思います。個人的に苦労したことといえば、製作中に風邪をひいたのと、打ち合わせで伺ったナムコさんがとにかく遠かった!ということでしょうか。その際、生まれてはじめて横浜の地を訪れながら、ベイブリッジにもラーメン博物館にも立ち寄ることなく終わったというのも悔やみきれません。ああラーメン。


ま、それはともかく、今はこのCMがユーザーの皆さんに「何か」を届けてくれることを切に願っています。ちょっとでも興味をそそられたなら、ぜひゲームを遊んでみてくださいね。









最後にクロノアシリーズについて。
僕自身かなりのゲーム好きで、クロノアは最初のPS版からプレイしています。好きなシリーズのひとつです。今回はアクションRPGということですが、アクションはビデオゲームの面白さを一番シンプルに伝えられるジャンル、またRPGはじっくりと遊ぶ家庭用ゲームに適したジャンルというわけで、このスタイルはユーザーに幅広く受け入れられるのではないでしょうか。アクションゲームでありながらストーリー部分にも力をいれていたクロノアにはまさにうってつけですよね。
前作よりちょっぴり大人になったクロノアの活躍。僕も楽しみにしています。

ていうか、早く遊ばせれー!!(笑)







次回の開発者リレーエッセイは、ディレクターの中西俊之の予定です!お楽しみに!!