御剣 平四郎
 後に“戦国の用心棒”“孤狼剣士”の別名で戦国に勇名を馳せた若武者。だが、彼とまみえた事のある武将・剣豪からは「鬼神」の如くいわれていた彼も、元々は備前国(岡山)に住む農民であった。

 生まれつき体格に恵まれた彼は、その余りある腕力で農作業を誰よりも楽しんでいた。彼曰く「おにごっこに次ぐいい運動」だったらしいのだが、耕しても耕しても軍馬に蹂躙される田畑をみているうちに、とうとう馬鹿らしくなった。

「……荒されて苦労するより、荒し回った方が楽じゃねえか!」

 14歳の冬、両親が他界したのをきっかけに、彼は鍬を捨てて刀を取った。彼は地方豪族のもとで剣技を身に付けると、備前の戦国大名浦上氏の『先備(さきそなえ)傭兵隊』に加わり、そこで「御剣」の姓を名乗るのである。
 我流に近い剣技ながら、馬力に任せて敵を薙ぎ倒す様は将に「鬼神」であり、また農耕で鍛えた足腰は、山城攻略戦にいかんなく発揮される。
 無論、相当の戦果を収めた彼がそのまま放っておかれるはずがなく、数度合戦を行う内に『武士として仕えろ』との誘いも来た。しかし、単に“己が力を強い者にぶつけたいだけ”の御剣には全く興味がない。…結局しばらくの後、彼は惜しまれつつ浦上氏の下を去ったのである。
 さて、すっかり己の力に自信を持った御剣。さらに自信を深めるべく、あらゆる戦いに参加する勢いで傭兵稼業を開始した。“戦国の用心棒”の異名はこの時期に付いたものだが、この事からも、彼がいかに暴れ回ったかが解るというものだ。
 ところが戦国の世に、御剣すら太刀打ち出来そうにない武器が現われてしまった。それは、「種子島」こと火縄銃……いわゆる、鉄砲である。

 「ナニ、「てっぽう」?そんなに凄いのか、こんな筒ッポが?」実物を見せられても御剣には到底信じられなかったが、この「鉄砲」によって、確かに“最強の武田騎馬軍団”が壊滅しているのである。
 太刀一本で渡り歩いてきた御剣にとって、これはあってはならない事態と言えた。何とかして鉄砲に勝る何かを見つけないとまずい。鉄砲なんて便利な武器がまかり通ったら、“強い奴を求める旅”を楽しむどころか、こっちが失業してしまうではないか!! 第一、「鉄砲最強伝説」など、彼のプライドが許すはずがない。

 そんな彼の耳に“伝説の剣・そうるえっじ”の噂が流れて来た時、御剣は思わず小躍りしそうになった。それだ!そいつなら、鉄砲なんてイチコロに違いないぞ!
 もともとかなり大雑把な性格の御剣は、とにかく船に乗って世界をくまなく捜そうと考えた。船なら、瀬戸内の海賊衆に頼めばなんとかなるだろう……。四国を目指して再び備前国に戻った彼は、美作、安芸を経由して伊予国(愛媛)へと渡る。そして、目前に広がる海を岸壁から望み、彼は力強く頷いた。

この海の向こうに、俺の求める“そうるえっじ”はある!

■ステージ設定
 瀬戸内海賊衆(毛利水軍)、能島村上氏の本城・「能島城」  御剣平四郎が、船を調達するために訪れた村上氏の城。島全体で城をなす“海賊城”であり、補給、軍港、海の関の役割を果たす。  本来は小規模な施設の複合体で形成されていた。だが丁度その頃、毛利側の脅威だった秀吉の中国征伐が一時挫折(『本能寺の変』による織田信長の死を隠しきれず、備中高松城の水攻めが失敗した事が原因)。そこで直接的脅威の去った折を見て、新築城法に基づいた改築を行なった。……結果「能島城」は、立派な天守閣や多聞櫓等を有する、いわゆる「城」となっていたのである。  御剣来訪の直後にちょうど水軍間の戦闘が発生し、村上水軍は一斉に出陣する。このとき、御剣は「船を出す引き換え」として、城の守備を依頼されたのである。快く受けた彼は、「能島城」にて、しばし旅装を解くこととなった。