雪とのみ降るだにあるを桜花
いかに散れとか風の吹くらむ
凡河内躬恒
儚く散っていく花を惜しんで詠まれたこの歌は、かつて京の都が「平安京」と呼ばれ、華やかな貴族文化の栄えた時代のものである。
時はうつろい、今は武士の世。天下を治めるは豊臣氏。安土桃山の絢爛たる文化が咲き誇る時勢であった。
秀吉が内裏跡に建立した豪奢な造りの城郭。その別邸も、華美を極めた当世の気風と、古代より愛でられてきた桜の美しさが融合し、見る者を夢幻に誘うかのごとき壮麗な景観を見せている。
名実ともに豊臣氏の権勢を知らしめたこの邸宅が、わずか十年のうちに取り壊される運命にあることを知ってか知らずか、桜の花びらはただ静かに舞い散っていく……。 |