大空を飛んだゲーム開発者たち
プロップサイクル開発スタッフのハンググライダー体験記


 酷暑の昨年夏、思い思いに心を決めた19名の若者が8月の炎天下の中この地に立った。
 或る者は「これが最後かも…」と前夜、親に電話をし、或る者は期待と不安でろくに寝ることもできず、そしてまた或る者は、この地に立った今も不安と恐怖で未だ決心がつかぬままに…。
 それでも彼らは、空を飛んだ──。


では、プロジェクトリーダーでもある企画のトーさんに進行役をお願いしましょう。いつ頃、何人で飛んだのですか?

企画のトーさん
「去年の8月の初め、2日に分けて行きました。飛んだのは全部で19人。うち一人が墜落して…(笑)。人力飛行機のゲームを作る話は、すでに前からあったんです。でもどうせやるなら、その前に本当に空を飛ぶことを体験したいと思って。別件で社長室に入ったとき、思いきってこの計画を社長に話したら、反対されるどころか『それはいいじゃないか!』と、のってくれた。これで一気に勢いがついたね。」
企画のエガ
「トーさんに、『飛べるところをさがせー!』って言われました。」
プログラマーのダイロー
「飛びに行く数日前に“プロジェクト結成会”があって、みんなこれが、最期の晩餐だって言ってたよね。」
トーさん
「女性はキリコ一人だったのに、良く飛んだね。」
CGのキリコ
「なんだか行かなきゃいけないっていうムードだったもの。それで『私も行くんですよ!』って言ったら、ビビってた男の人達も行く気になったみたい。」
トーさん
「バンジージャンプと同じで、これは人生の中でなかなか味わえないスゴイ体験なんだから、絶対トライしたほうがいい!って気持ちだったんだ。」
エ  ガ
「今思うとスゴイね!素人が団体で飛ぶなんて日本で初めてのことだって。」
トーさん
「初心者とタンデムで飛んで、教えられるインストラクターは日本に4人しかいないのに、そのうちの3人が集まった。」
ダイロー
「会社の仕事でしかもこんな大勢飛びに来るなんてナムコの人はちょっと変だって、インストラクターに言われたよ。」
トーさん
「しかも僕らを怖がらそうとわざと失速させたり、急降下してみたらかえって喜んだもんだから、まったくナムコの人はどうかしてるって言ってたっけなぁ。」


風をつかまえろ
ここで当日のビデオが到着。ビデオを見ながら話がはずんだ。

プログラマーのたけぽむ
「最初飛んだときは、頭の中が真っ白。」
キリコ
「飛んでる時間は3分ぐらいかな。でもすごく短く感じた。」
たけぽむ
「インストラクターが風を見て、いい風が来る時まで待つんだけど、この時がもう心臓がドキドキなんだよね。それでいきなり『行きます!』って言われる。」
ダイロー
「スロープで『走れ!』って言われて走るんだけど、2、3歩走るともう下は何もない。空中に足が浮いてる。それでも足を回せ!って言うんだ。」
プログラマーのなお
「一番最後まで渋ってたのは、マサタローだったね。」
キリコ
「マサは初日の1番バッターだもの。」
CGのマサタロー
「僕はもともとジェットコースターもダメなんだ。いざ本番の時には、ほとんど自殺する様な気持ちで飛び降りたよ。」
な  お
「でも本当に飛んだ時には、皆から拍手と歓声が上がったね。」
マサタロー
「体が空中に浮いた感じが忘れられない。飛んでる時は、今まで見たことのない風景が下に広がってた。」
エ  ガ
「まわりに何もさえぎるものがないっていうのは、すごいなぁと思った。風を、もろに体に感じるね。」
トーさん
「そう、このゲームの中で風はとっても重要なものなんだ。だから絶対、筐体の前面から風が吹いてくるようにしたかった。」
たけぽむ
「でも、設計の担当者が最初は渋っていたんだ。」
トーさん
「だけど、設計者自身が空を飛んだらすっかり変わっちゃった。『風、いいですね。つけましょう!』ってね。」
エ  ガ
「おかげで風をつけることができた!」



空を飛ぶロマンをゲームに込めて

トーさん
「このビデオの映像が、後で見てとても参考になった。」
ダイロー
「小型CCDカメラをハングの翼端に付けて撮ったんだ。弧を描いて飛んだ時はどう見えるか、とか、地面と空の見え方もよくわかった。」
たけぽむ
「音も参考になったよ。風を切る音、失速したときの音。風ってあんなに音がするものだと思わなかった。」
マサタロー
「地面に自分の影が落ちているのを見て、あー、僕は空を飛んでいるんだなー、って実感した。だからゲームでも自分の影が下に見えるようにしたんだ。」
キリコ
「あれとっても飛んでる感じがするね。」
ダイロー
「楽しかったけど、ハードな一日だったよね。夏の炎天下で機体を組み立てて、飛んで、下でばらして、車で運んでまた飛んで…」
たけぽむ
「すると、下で冷たいビールが待っている。」
トーさん
「うまかったなあ。あんなうまいビール今まで飲んだことなかったよ。」
エ  ガ
「インストラクターの人もよくがんばって教えてくれた。」
トーさん
「ほんと。一人墜落して機体を壊してるし。きっと採算あわないと思うよ。」
キリコ
「きっと皆、本当に飛ぶことが好きなんだね。」
トーさん
「僕が一緒に飛んだ人はもう40過ぎのオジサンなんだけど、飛ぶことにすごくロマンを感じている人なんだよ。前に一人で茨城から福島まで飛んだんだって。上昇気流を捕まえながら、雲の上まで上がっちゃったりすると、この広い空で、今俺一人が浮いているんだなぁ…って感じるんだって。その話を聞いて、感動しちゃったよ。空を飛ぶっていいなぁっていう思いを、そして飛んだ時の感動を、なんとかこのゲームに込めたいと思ったんだ。」
ダイロー
「帰り道は、すっかりみんな感動しちゃって、ハンググライダーのゲームに変えようなんて言ってたよね。」
トーさん
「また、飛んでみたいよね!」
たけぽむ
「よし、このゲームが完成した暁には、打ち上げとして今度は自腹を切って飛びに行こうよ!」
みんな
「いいね!行こうぜ!行こうぜ!!」


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